Vol.1 最初に私のことを少し説明しておきます。

最初に私のことを少し説明しておきます。16歳で時計修理の世界に入り、約7年間、町の小売店で働き、ある程度セイコー、シチズンなど国産時計の修理を覚え、23歳でスイス時計の修理に携わるようになりました。その後、いろいろなブランドの輸入会社に席を置き、スイスにも十数回トレーニングなどで訪れ、33歳のときには1年間、スイスの山の中で仕事をしました。

そういう経験を踏まえ、私なりの考えを述べ、時計技術者そして時計を持っている人が時計の修理技術に関して理解を深めていただけるよう話を進めていきたいと思います。技術者といっても働く場所はいろいろありますが、まず挙がるのがメーカー(輸入代理店)の技術部です。技術者は多いところでは1社で200人以上もいますが、1人というところもあります。スイスの会社と直接繋がっているため、技術的なこと、交換部品が手に入りやすいなど非常に恵まれていると思います。

ただ私は少し違った見方をしています。そうした技術者は恵まれた環境にいるため、会社の中だけの勉強に終わっているように感じます。その会社で一生働くと決めている人はそれでもよいのですが、はたしてそれが可能でしょうか。今後、ムーブ交換対応が始まったら一人前の技術者は必要なくなります。ちょっと手先の器用な人で十分対応が可能と考えるからです。大きな会社に入ったから安泰と考えるのはどうでしょうか。私のうがった見方でしょうか。時計修理技術者について、世の中の人には、大変な細かい仕事で職人の世界と思われています。しかし私が見る限り、今の若い技術者はサラリーマン化してしまったと思います。自分から目標を持って仕事をしている人は少ないように見えます。会社や上司の指示だけで動いているようです。でも、サラリーマン技術者の皆さん、それが一番ラクなのですか。

時計好きのユーザーの皆さん、こうした状況を聞いてどう思いますか。ひとつ皆さんにお聞きしたいのですが、自分の時計修理がどのように行われているかご存知ですか。先ほど述べたムーブ交換についてですが、ふたつの考え方があると思います。ひとつは、不良の時計を動くようにするのだからと容認する人。もうひとつは、修理をせずにムーブを交換したらどこが不具合だったか分からず不安を覚える人。いま、どこまでムーブ交換が行われているか分かりませんが、クオーツ、手巻き、自動巻き、ひょっとしたらクロノグラフの時計もムーブ交換をしている会社があるかも知れません。
修理に出すときは、その内容を詳しく知ることが必要です。ただ聞くところによると、昨今では時計に対しての思いが昔より薄れ、言い換えればステータスではなくなってきたということです。だから時計修理に対しても無頓着な人が多くなっているのではないかとも思うのですが、あなたはどちらですか。

もうひとつ、輸入会社の対応で危惧していることがあります。現行品で日本で修理ができるものは問題ないのですが、できないものへの対応が私は気になります。現行品でも新製品はスイス修理、永久カレンダーなどちょっと複雑な機構になるとすぐスイス修理になっていますが、購入時に修理はスイス送りになると聞いていますか、説明されていますか。先日、私のところに来たお客様が、スイス修理になるが4カ月ほどかかるといわれたとメーカーの対応に怒っていました。急ぐということなので私がみたところ、オーバーホールで十分だったのでそのようにしてお返ししました。どうしてスイスで修理しなければならないのかと思うような時計もスイス送りになっているようです。
このことがあったので、ある輸入会社に聞いてみました。スイス送りでクレームはないのですか、と。答は、あるとのことでした。そのことをスイス側に伝えたら、そのような時計をお持ちのお客様はいくつも所有されているのでひとつぐらいスイス送りになっても問題はないのではないかとの回答だったそうです。皆さん、この回答をどう思いますか。私は、お客様のことは考えてないねと、つい言ってしまいましたが、ここのところのこのような話をよく聞きます。現行品でもこの有様ですので、30年前の時計ともなると門前払いになるか、預かるにしてもスイス送りになり料金もびっくりするようなことになるということでしょうか。これでいいのでしょうか。