Vol.2 そもそもスイス修理とは何でしょう

前回に続いてメーカー(輸入代理店)・販売店の修理対応について話をしていきたいと思います。

時計をお買い求めいただいたお客様、また、時計愛好家の方にお尋ねしますが、お買い求め時にメンテナンス、アフターについて確認していますか。多分ほとんどのお客様は使用説明は受けるでしょうが、この件はされていないのではないかと思いますがいかがでしょうか。少なくとも、お買い求めの時計の修理が日本国内修理か、スイス送り修理になるのかの確認ぐらいはしておくべきだと私は思いますが。メーカー・販売店の方達にもお願いします。このことは修理預かりのときのポイントです。
ただメーカーの営業に聞くと、スイス送りの修理になることを話すとお買い求めいただけないケースもあり、聞かれないかぎりいわないということもあるそうです。私達、修理技術者の立場からは、国内修理かスイス送り修理かは、はっきり話しておくべきだと考えます。
前回も話しましたが、スイス送りで4ヵ月かかると言われたことに怒って私の工房に修理品を持ち込まれた例がありました。販売時にきちんと説明がなされていたらお客様も怒らずにすんだかもしれませんね。

そもそもスイス修理とは何でしょう。自分のことを少し話しておきますが、私が関わったブランドでは、ほとんど日本で修理してきたので、いまの輸入会社のスイス送り修理の多さに疑問を持っています。自分の時計がスイス修理になると聞いた時どう思いますか。購入時にスイス修理になることの説明を受けている場合は良いのですが、そうでない場合は大変です。スイス修理の場合はおよそ4ヵ月から6ヵ月、当然日数がかかります。自分が欲しくて買い求めた時計が4ヵ月も手元からなくなると考えたら大変だと考えませんか。
半年ほど前に聞いた話です。ある有名ブランドの300万円の時計がスイス修理になり、4ヵ月かかって戻ってきたのですが、2ヵ月したらまた不具合が出てスイス修理になると言われたそうです。お客様は、この時計は腕に付けている時間よりスイスに行っている時間の方が長いと立腹されたそうです。時計愛好家の皆さん、輸入代理店の技術者の方々にはこの現実をどのように思いますか。

メーカー(輸入代理店)の技術者は分かっていると思いますが、機械式の修理はどれをとってもデリケートで大変です。特に新製品、オリジナルのムーブメントだとなおさらですね。もっと言えば、老舗の機械はそれなりのしっかりした作りですが、ここ数年間に出てきた新しいブランドの中にはアイデアだけで作った設計図のままに作られてて作動不良が起きるものを見ることがあります。16年前に約5年間修理に携わったあのランゲ&ゾーネでさえ、新しいムーブメントができて販売できるようになるまで約4年かかると聞きました。本当に良くなるには、それからまた改良を続けて4年かかると言っていました。新製品、特に新しい機械が入った時計はまだ完成品ではないと思っていただければと思います。あのランゲ&ゾーネでさえ完全な時計ができるまでに8年はかかるというのですから。余談ですが、ランゲ1の部品の中に1箇所だけ私のアイデアを取り入れて改良したところがあります。いまでもランゲ1の修理がくるとその部分にすぐ目がいきます。

ちょっと横道にすれましたが、輸入代理店の技術者の皆さん、日本のお客様は世界一厳しい目を持っています。言い替えれば日本のお客様を満足させることができれば、世界の時計愛好家を満足させることができると私は思います。ですから積極的にスイスにものを言えるようになることが必要だと思います。いまのようにスイスに行ってスイス人のトレーナーの話を聞くだけではなく、積極的に問題提起をしていくことが必要であり、もっと言えば、スイス送りにせず日本で全部修理できるようになれば良いですね。

次回は、私の経験を話しながら、どうすれば良いのかを考えていきたいと思います。