いよいよ技術の話を、CMWの試験の話をしようと思います。その前に、このコラムを読んでいる人のなかには修理技術者の方も、それも日本でCMW試験がなくなった後に技術者になった若い人もいると思いますので、日本の国家試験の一級二級との違いなどを話したいと思います。
まず日本の国家試験は受験した技術者を合格させるための試験であると、私は思います。その理由として、試験の前に試験の内容、ブランド、キャリバーがわかることがあります。ブランドやキャリバーが前にわかれば試験だけのための勉強ができますね。試験の内容を見てもわかります。現行の機械でその中に油・グリスを流し込みベンジンで洗わないと動かないようになっています。でも壊した部品はありません。ですから、その機械を分解組立ができれば試験に合格が可能です。
面白い現象が起きていると聞きます。A社の機械のときはA社関連の技術者が多く受験して、B社の機械のときはB社関連の技術者が多く受験していると聞いています。これって試験でしょうか。私にはこのブランドのこのキャリバーの機械のオーバーホールができますというテストにすぎないような気がしますが、どうでしょう。A社関連の技術者はB社の修理はしないでしょうし、B社関連の技術者はA社の修理はしないでしょうから。試験を受ける技術者の中にはどちらにも属さない人もいるわけですが、この人たちは大変だと思います。
テスト内容を見てもわかるように、私の目には修理ではないかなあと思うのですが、テスト中、不具合があっても部品交換で対応してくれます。たしかに今の修理業界の内容は部品交換対応が一般的です。昔に比べれば部品供給が大変良くなっていますからね。ただ、部品交換修理になったため弊害が起きている場合があります。例えばテンプの片重りがあるため姿勢差が多くあるとします。私はテンプの片重りを取って調整するのですが、若い技術者の中にはテンプ一式交換して直す人がいます。振角が悪いといってアンクルを交換する技術者がいます。私は爪調整をやってみますが。
ちょっと横道にそれる話かもわかりませんが、何カ月か前にインターネットで修理会社の修理料金を見ていたら、私にとってはびっくりすることが書いてありました。分解掃除料金の下に別料金としてアンクル爪調整、姿勢差調整と料金が書いてありました。多分若い技術者の会社と思いますが、言いたかったのだと思います。他の修理屋さんは部品交換で対応しているが自分の会社は調整で修理できますよとアピールしたかったのかと私は思ったのですが。私たちの時代は分解掃除のなかにテンプ調整アンクル調整が入っていたのになあと時代を感じさせる内容でした。
話を前に戻します。部品交換対応が多くなったのですが、交換部品が手に入らなかったらどうします。おそらく、できませんと戻すかメーカーに出すか、ですね。メーカーはどうしているのでしょう。町の修理業者よりも当然部品が揃っていると思いますので直ると思います。ところが、これが20年前30年前の時計ともなると町の修理屋さんと同じ対応になって、今度はスイス送りになるのです。私も輸入会社にいましたが、技術的に私から見たらそう難しいとは思わない修理も若い技術者にとっては大変なことのようでした。ちょっとした修理技術があれば直せるのにやらない。私がこうすれば直ると指導してもそのことが理解できない、理解できても手が動かないなど色々ありました。ですから今、私はちょっと危機感をもっています。このまま部品交換の修理技術で良いのか、部品がなかったらメーカーに送ってスイス修理で良いのか、時計業界全体で考えてほしいと思います。
CMWの話ができませんでしたが、日本の国家試験とは全く目的が違うということだけは言って、今回の終わりとしたいと思います。