時計の修理とは? No.11-4

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もう一つ、これは意図的にと思いますが、天輪の色がメッキされて変わっていました。色が変わっているだけならいいのですが、メッキされたため、そのぶん天輪が重くなっているのです。天輪の穴を直しヒゲ全舞を直し、自分が作った天芯を天輪にセットして動かしてタイミングをみたら、完全に遅れになっているわけです。ここで私は大失敗をしてしまいました。ヒゲ全舞をいやというくらいに直したためヒゲの弾力が弱って遅れていると勘違いしてしまいました。勘違いしたままどうしたと思いますか。ヒゲ全舞を遅れの分、短く切ってしまったのです。どうして切ったことが悪かったのか、技術者の皆さん分かりますか。普通の修理でヒゲ合わせの仕事がきた場合、通常ヒゲのカットは当たり前なのですが、精度を要求する試験ではもう少し考えるべきだったと後で思いました。どうしてでしょう。それはヒゲ全舞の巻き込み角を考えていなかったのです。ですから本当の調整のやり方は、工場で巻き込み角は調整されているのでヒゲのカットではなくメッキした分、天輪を軽くするだけでよかったのです。つまり天輪のところをキリで削って軽くしてやれば巻き込み角を変えずに調整できたのにと後悔しましたが後の祭り。合格はしましたが、受験した中ではビリではなかったかと思っています。

 

この文章は、THE WATCH & JEWELRY TODAY(株式会社 時計美術宝飾新聞社)に2011年1月~11月と2012年3月の12回連載されたものを打ち直したものです。

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