前回、CMWの試験は日本の国家試験とはまったく違う試験ですよとお話しました。具体的に私の試験内容を思い出しながら書いていきます。まずNo.7で書いたように一次試験と二次試験がありました。一次試験は学科が500問題あったと思います。それから図面による巻芯と天芯作りでした。この試験はいつも練習していたことなので、そう難しいことではなかったように思います。ただ焼入れ焼戻しがあり、当然、硬さの検査もありました。今の技術者の皆さん、今のやり方はどのようでしょうか。私のやり方ですが、焼きの入ってないロット棒で形を作り、その後、焼きを白焼きにして、焼戻しの時の火色をよく見えるようにするため磨きます。焼戻し方は、私は真鍮を目の小さいヤスリで削って粉を作り、その中に焼戻しする巻芯または天芯を入れ、薄い茶色になるまで戻してもう一度磨いて出しました。
前に2回目でCMWに合格したと書きましたが、1回目の時は一次試験で不合格になったのですが、なんで不合格になったのか分りませんでした。前にもお話しましたが、自己流でやってきてまったくどのような試験内容かも分からず受けたので1回目はしょうがないと諦めました。そのため2回目の受験前に、前に合格した人に、何が必要か、どのような準備をすればいいか聞いて備えました。幸い一次試験に合格し初めての二次試験に挑むことになりました。笑われるかもわかりませんが挑むという表現がぴったりと思いました。27歳の時ですから今から38年前です。少しずつ思い出しながらお話していきます。間違っていないと思いますが、セイコーの鉄道時計で19セイコーではなく腕時計サイズのムーブでキャリバー6110Aというものだったと思います。全員同じ時計なのですが、当然壊され方は同じではないのです。ですからくじ引きで時計を選んだと記憶しています。私の手にした時計は全舞から輪列のガンギ車まで壊れているところはなかったと記憶しています。壊されていたのはアンクル爪石が外れかかっていました。テンプについては天輪から振り座がついたまま、ヒゲ全舞がついたままタガネで外されていました。そのため天輪の天芯の入る穴が歪になっていました。その穴に作った天芯をそのまま合わせるわけにはいきません。そのままセットすると天輪が横ブレしてしまいます。そのような壊され方がされていることは、合格した技術者から聞いていたので段チャックに噛み歪になった穴をバイトで削って直しました。ヒゲ全舞も5、6箇所壊れていたと思います。ヒゲの直しも本当に大変でした。
もう一つ、これは意図的にと思いますが、天輪の色がメッキされて変わっていました。色が変わっているだけならいいのですが、メッキされたため、そのぶん天輪が重くなっているのです。天輪の穴を直しヒゲ全舞を直し、自分が作った天芯を天輪にセットして動かしてタイミングをみたら、完全に遅れになっているわけです。ここで私は大失敗をしてしまいました。ヒゲ全舞をいやというくらいに直したためヒゲの弾力が弱って遅れていると勘違いしてしまいました。勘違いしたままどうしたと思いますか。ヒゲ全舞を遅れの分、短く切ってしまったのです。どうして切ったことが悪かったのか、技術者の皆さん分かりますか。普通の修理でヒゲ合わせの仕事がきた場合、通常ヒゲのカットは当たり前なのですが、精度を要求する試験ではもう少し考えるべきだったと後で思いました。どうしてでしょう。それはヒゲ全舞の巻き込み角を考えていなかったのです。ですから本当の調整のやり方は、工場で巻き込み角は調整されているのでヒゲのカットではなくメッキした分、天輪を軽くするだけでよかったのです。つまり天輪のところをキリで削って軽くしてやれば巻き込み角を変えずに調整できたのにと後悔しましたが後の祭り。合格はしましたが、受験した中ではビリではなかったかと思っています。